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書評「生涯投資家」村上世彰著

ベストセラーになっている村上世彰著「生涯投資家」。10年ほど前、村上ファンドを率いて日本に旋風を起こしていましたが、ニッポン放送を巡るインサイダー取引を行った容疑で逮捕され、それからはあまり見なくなっていました。村上氏は日本をドラスティックに変えてくれそうな感じを持っていたので期待していましたが、出る杭は打たれるのでしょう、あっという間に叩かれてしまいました。

もし、村上氏が逮捕されず、彼の思いをきちんと世の中が受け止めていたら、日本はもう少しいい方向へ変わっていたかもしれないとずっと思っていました。そして今回、著書を読んでその考えが間違っていなかったと確信しました。

村上氏が一貫して言っていたのが「コーポレート・ガバナンス」。内部留保資金を貯めることなく循環させて、企業価値を高めたいとの一心だったことがわかります。お金は川の流れと同じで使わないとどんどん淀んでいきます。内部留保として貯めるのではなく株主に還元する、従業員の給料を上げる、未来の儲けになることに投資する、自社株を購入するなどが企業価値を高めます。これを行っていない日本企業が多すぎるため、景気が良くならないのではないでしょうか。

残念ながら、乗っ取りだと勘違いされて袋叩きに合っていましたが、彼の信念を理解して説明できる人がいたらと思うと残念でなりません。

村上氏がなぜ、この本を書いたのかは文末に載っています。ここでは敢えて紹介いたしませんので、読んでからのお楽しみ。

内容
2006年6月、ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引を行った容疑で逮捕され、のちに執行猶予つき有罪判決を受けた村上ファンドの村上世彰氏。逮捕間際に言ったその言葉が注目された。以後、表舞台から姿を消したが近年株式取引の世界に復帰。その動向が注目されている。
本書は、その村上氏の最初にして最後の著書であり、半生記であり、投資理念の解説書でもある。灘高―東大法―通産省を歩んだエリートがなぜ投資の世界に飛び込み、いったい何を試みたのか。ニッポン放送、阪神鉄道、東京スタイルなどへの投資において、いったい何があったのか。その投資哲学、日本企業、日本の経営者たちへの見方はどうなのか。そして今後何をしようとしているのか。
村上ファンドを率いて日本に旋風を巻き起こした著者が、その実像と思いを自ら書き上げた話題作。

現在はシンガポール在住でダンディな風貌。

(目次)
はじめに――なぜ私は投資家になったか

第1章 何のための上場か
上場のメリットとデメリット/官僚として見た上場企業の姿/コーポレート・ガバナンスの研究/ファンドの立ち上げへ――オリックス宮内義彦社長との出会い/日本初の敵対的TOBを仕掛ける/シビアな海外の投資家たち

第2章 投資家と経営者とコーポレート・ガバナンス
私は経営者に向かなかった/私の投資術――基本は「期待値」、IRR、リスク査定/投資家と経営者との分離/優れた経営者とは/コーポレート・ガバナンス――投資家が経営者を監督する仕組み/累積投票制度を導入せよ――東芝の大きな過ち

第3章 東京スタイルでプロキシーファイトに挑む
東京スタイルへの投資の始まり/十五分で終わった社長との面談/激怒した伊藤雅俊イトーヨーカドー会長/決戦の株主総会/なぜ株主代表訴訟を起こしたか/長い戦いの終わり

第4章 ニッポン放送とフジテレビ
フジサンケイグループのいびつな構造/ニッポン放送株式についてくる「フジテレビ株式」/グループ各社の幹部たちの思惑/本格的にニッポン放送への投資に乗り出す/生かされなかった私たちの提案/私が見たライブドア対フジテレビ/逮捕

第5章 阪神鉄道大再編計画
西武鉄道改革の夢――堤義明氏との対話/そして阪神鉄道へ/会社の将来を考えない役員たち/阪神タイガース上場プラン――星野仙一氏発言の衝撃/またしても夢は潰えた

第6章 IT企業への投資――ベンチャーの経営者たち
ITバブルとその崩壊/光通信とクレイフィッシュ/USEN、サイバーエージェント、GMO/楽天――三木谷浩史氏の積極的なM&A/ライブドア――既得権益に猛然と挑んだ堀江貴文氏

第7章 日本の問題点――投資家の視点から
ガバナンスの変遷――官主導から金融機関、そして投資家へ/日本の株式市場が陥った悪循環/投資家と企業がWin‐Winの関係になるには/海外企業の事例――Appleとマイクロソフト

第8章 日本への提言
株式会社日本/コーポレート・ガバナンスの浸透に向けて/モデルケースとしての日本郵政/もう一つの課題――非営利団体への資金循環/世界一の借金大国からの脱却

第9章 失意からの十年
NPO/東日本大震災について/日本における不動産投資/介護事業/飲食業/アジアにおける不動産事業/失敗した投資の事例――中国のマイクロファイナンス、ギリシャ国債/フィンテックへの投資

おわりに

村上ファンドを知っている世代も、そうでない世代も「コーポレート・ガバナンス」や投資の大切さを知る上では必読の一冊。

ほな!

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