KITTE名古屋で開催されている「エルメスの手仕事」展がヤバすぎて再訪してみた







今回の記事は3,000文字近い力作なので、時間のある時にお読みいただければ幸い。

10月4日(水)〜9日(月・祝)までKITTE名古屋3Fで開催されている「エルメスの手仕事」展  “アトリエがやってきた” に先日訪れました。実演が素晴らしく、まだまだ見たかったのですが時間がなかったので後ろ髪を引かれつつ会場を後にしました。

どうしてもシルクスクリーンプリントの実演を見たくて7日(土)に仕事を早く切り上げて再訪。シルクスクリーンプリントの実演は17時30分からですが、一番いいポジションで観るため、20分前から場所取りのためスタンバイ。待っていたら解説役のカメル氏がiPhoneのFacetimeで奥様とお話しておりました。さすがフランス人、出張中もテレビ電話をして奥様との会話を大切にするのだと感心した次第。

17時30分ちょうどに実演がスタート。プリンター職人はサイド氏が担当。11色を使ったスカーフのデモンストレーションが始まりました。今回はデモのため比較的色数が少なくなっていますが店頭に並んでいる同じ柄のスカーフは18色使われています。デザインは不死鳥の神話というタイトルで真ん中にフェニックスが描かれています。エルメスのスカーフに使われる平均の色数は25〜30色程度。

以前、表参道で開催されたエルメスの手仕事展の時に紹介されたサムライというデザインのスカーフは43色使われており、素晴らしい色彩と図柄で惹き込まれました。スカーフを持って説明しているのがカメル氏。

 

デザインを作るのに6ヶ月かかります。フリーランスのデザイナーが各国に40名おり、その国々のモチーフがデサインに活かされています。そのデザインを製版デザイナーがエッジングし、6ヶ月かけて製版します。先程のサムライはエッジングだけで一年の月日がかかります。

デモンストレーション、まずは台の上にシルクを敷いてピンと伸ばします。

 

ほぼ一発で位置を合わせるのは神業。トントン叩いて微調整します。プリントを重ねるのはとても難しく少しでもズレたら作品として販売できません。サイド氏はいとも簡単に重ねているように見えますが28年のキャリアが成せる技。

 

スクリーン位置が決まったらインクを垂らし、ヘラで伸ばしてインクをシルクに着色します。

 

余ったインクはバケツへ戻し、ヘラやスクリーンは一枚終わる毎に水洗いされ綺麗に洗浄されます。

 

シルクスクリーンプリントの工程を順にどうぞ。

 

ネクタイも同様の手法で作られます。プリントされた一枚のシルクを裁断し、ネクタイのパーツ生地にしていきます。柄は同じですが、色を変えるだけでイメージがガラッと変わります。

 

若手の育成にも力を入れており、30年以上のキャリアを持っている職人が後見人として若手を育てています。シルクプリントができるようになるまでに3年、カシミアシルクはさらに年月がかかります。エルメスはいいものを作るためには時間をかけることには厭わないポリシー。エルメスでは1万3千人が働いており、その約半分の6,000人が職人、そしてそのうちの4,800人がフランスで働いています。シルクプリントのラボはリヨンに集まっています。

エルメスは1837年に馬の装具メーカーとして創業、今年で180周年となります。2代目の時に馬具だけでなく、乗馬する人が使うアイテムを手がけるようになり、3代目がローシルクのスカーフを開発し販売するようになり、今のエルメスへと繋がります。

エルメスのポリシーは最高の素材を使い、最高の職人が手がけ、最高の作品を作ること。エルメスでは出来上がったものは「商品、製品」とは呼ばず「作品」と呼びます。それだけ思い入れがあるという証。

シルクスクリーン用の染料はエルメスの工房で作られたオリジナルで、色は7万5千色以上あります。絹はブラジルのパラナ州の最高品質の蚕の繭を使っています。シルクの糸は鋼鉄と同じぐらいの強度があり、しなやかで柔らかい風合いが魅力。

エルメスシルクはトゥィル織り(綾織)で編まれており縦糸、横糸が同じ強さで軽くて強靭かつしなやか。90cm×90cmのスカーフで300個の蚕の繭が使われています。距離にすると450kmにもなり、大阪〜横浜間ぐらいの距離になります。

プリントが終わった後はスチームをかけて色止めします。大きな釜で1時間スチームをかけます。染料には天然ゴムが混じっているため、スチームをかけるとゴワつきがでます。それをシルク本来のしなやかさがでるまで洗いとすすぎを繰り返します。

シルクスカーフは定期的にドライクリーニングが必須。雨の日はできるだけ着用しない方がいいとのこと。もし雨が降ってきたら濡れないようにしまいましょう。

ひとつのスカーフが出来上がるまでには平均でデザインに6ヶ月、スクリーン製版に6ヶ月、プリントし、その後縁かがりをしてやっと出来上がります。

同じデザインで10ほどのカラーバリエーションを作ります。

 

これらをエルメスブティックの内覧会「ポディオン」でお披露目し、世界中のバイヤーが色柄、数量を注文します。ポディオンは2週間に渡って開催され、終了と同時に生産に入ります。ポケットチーフ、バンダナ、ネクタイも同様の方法を取ります。そのためエルメスに置いてある作品は店舗ごとに少しずつ違います。

作品は注文が入った分しか作らないため、完売したらそれで終了となり再販はしません。どんなに人気があったとしても再発注は受け付けていないため、欲しいと思った時に買っておかないと二度と手に入りません。

作品は二重のチェックをされて、ファーストチョイスされたものだけが、パリに送られ、その後世界各国へ配送されます。セカンドチョイスはリヨンに留められ、ほとんどがシュレッダーにかけられリサイクルされます。一部は「pethit h(プティアッシュ)」の作品となるべく利用されます。これらにより一層ブランド価値を高めています。

約1時間ほどの実演、説明が終了し、閉場までまだ時間があったので、スクリーン製版職人のパビエンヌ氏を先日に続いて訪問。製版工程はデジタル化されており、色ごとにフォトショップのレイヤーが分かれています。先程のシルクスクリーン用の板がそれぞれのレイヤーと連動していることが両方の実演を見ることによりやっとわかりました。

 

その後、前回休憩中のため見られなかった縁がかり職人のロール氏を訪問。縁15mmでルロタージュされます。1mmすくって7mm中を通すという作業を繰り返します。角は両方が重なり厚みが出るため、その部分はカットし形を整えます。その作業はまさに職人技。思わず見とれてしまいます。ロール氏は職人としての腕もさることながら、めちゃくちゃチャーミングで綺麗な女性。手元のルロタージュも気になりますが、そのルックスも気になって見とれていました。

 

仕事では疲れが溜まらないよう、眼のマッサージや手首のストレッチなどをこまめにされているとのこと。3ヶ月に一度かかりつけのドクターに診てもらえる態勢がしかれており、エルメスの福利厚生の充実の素晴らしさを窺い知ることができました。

今回は17時から2時間たっぷり鑑賞することができましたが、それでも観たいブースがまだまだあります。もしチャンスがあれば、あと1回行きたい!

 

会場
KITTE名古屋 3F JPタワー名古屋 ホール&カンファレンス
名古屋市中村区名駅1-1-1

会期
2017年10月4日(水)~9日(月・祝)
開催時間
11:00~19:00(最終入場18:30)
入場 無料

 

ほな!